イザベル・アダムス(Isabel Adams)の美しすぎる植物図鑑


20世紀初頭のイギリスで出版された植物図鑑“Wild Flower of the British Isles(ブリテン諸島の野生の花)”。
女性の画家(その図鑑の著者でもある)による図版は植物分類学のためのものとしてはあまりに美しく、そのためにむしろ学術的には不当に低く評価されてきたとも言われています。

著者の名前はハリエット・イザベル・アダムス(Harriet Isabel Adams, 1863-1952)。一般には“H. Isabel Adams”として知られています。
イギリスのウスターシャー州生まれ。
アーツアンドクラフツ運動の中心地であったバーミンガム美術学校で学び、蔵書票のデザインや児童書の挿絵などを手がけました。
“アダムス”は父方の姓ですが、彼女が結婚していたかどうかや子どもの有無など私生活に関することは、ほとんど記録がありません。




〈 挿絵の仕事で唯一確認できる“Little Red Riding Hood and The History of Tom Thumb” (1895年) 〉
フロリダ大学のデジタルコレクション(こちら)で全文見ることができます


イザベル・アダムスが植物学に興味を持ったきっかけや経緯なども不明ですが、1906年までには、分類学・博物学に関する世界最古の学術機関、ロンドン・リンネ協会のフェローに選出されており、更に別の協会(Botanical Society and Exchange Club of the British Isles)のメンバーだったことがわかっています。
ちなみにリンネ協会が女性を初めてフェローに選出したのが1904年なので、1906年はかなり早い段階。男性ならともかく、女性でその時期にリンネ協会の会員となったような人物の資料が、これほど残っていないことってあるのだろうかとも思うのですが、どうなんでしょう。

代表作である“Wild Flower of the British Isles(ブリテン諸島の野生の花)”は1907年に第1巻が、1910年に第2巻が出版されました。
学術的に最高水準とまでは言えないものの、初学者には十分な内容を備えたものでしたが、注目されたのは主にその美しい図版。著者が女性で、元々が画家だったこともあってか『植物分類学の本というより客間のテーブルの上に置くための装飾本』と揶揄されたこともありました。後にそのうちの多くが1枚ずつ切り離され、本としてではなく飾るためのカラープレートとして販売されてきたことも事実です。
しかし、そのような評価をした人々でさえ、図版の正確性と技術の高さは認めるところでした。それだけに時代の狭間で、その才能を十分に活かしきれなかったのかもしれないことが惜しまれます。

以下、ひたすら“Wild Flower of the British Isles(ブリテン諸島の野生の花)”の図版を並べますが、Internet Archiveにアクセスすれば解説部分も含め順番に通して読むことができるので、むしろそちらをおすすめします。
これは1910年に出版された第2巻のほう。何故、第1巻からあげないのかというと、私がイザベル・アダムスを知るきっかけになった図版がこちらに収録されているものだったからという、極めて個人的な理由からです(笑)


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