ハッティ・ロングストリート・プライス (Hattie Longstreet Price)
アメリカのイラストレーター、ハッティ・ロングストリート・プライス(Hattie Longstreet Price, 1891.7.17-1968.7.11)。
ペンシルバニア州のジャーマンタウンで生まれ、ペンシルバニア美術アカデミー(Pennsylvania Academy of the Fine Arts ※略称PAFA)で学んだ後、奨学金を得てパリのアカデミー・コラロッシに留学しました。
アカデミー・コラロッシは19世紀末から20世紀にかけて、パリにあった私立の美術学校。女性や外国人を多く受け入れていたことでも知られ、カミーユ・クローデルや黒田清輝、アルフォンス・ミュシャなども在籍していました。
主に本の挿絵画家として活躍していたハッティ・ロングストリート・プライスですが、イラストレーターになった経緯など詳しいことはわかっていません。
ただ、彼女が挿絵を描いた本の出版は、ほとんどが1920年代以降であり、作品に添えられたサインはいずれも“Hattie Longstreet Price”もしくは“H・L・P”です。“Price”は夫の姓であることから、本格的にイラストレーターの仕事を始めたのは結婚後だったのかもしれません。
60代の終わりに引っ越すまでは、ずっとジャーマンタウンで暮らし、婦人クラブの美術講師を務めるなど地域にも貢献しました。
肖像画家としても活動しており、作品の展示も頻繁に行っていたようです。
亡くなったのは、イリノイ州シカゴ。おそらくはジャーマンタウンを出た後の晩年の移住先であったと思われます。当時の記録によれば、遺族として夫ウィル・カールトン・プライスと嫁いだ娘が2人、更に2人の孫の存在が記されています。享年76歳でした。
サラ・ウェア・バセット著 "The Story of Silk" 1918年
エリザベス・H・チェイニー著 "The joyous adventures of John and Betty" 1921年
ルース・キャンベル著 "That Pink and Blue Affair" 1923年
ルース・キャンベル著 "Runaway Smalls" 1923年
マーガレット・ウィドマー著 "Binkie and the Bell Dolls" 1923年
ルイーズ・M・プレザントン著 "The Fairyland of Opera" 1923年
"The Fairyland of Opera" 1942年版
リダ・ラリモア著 "Blossoming of Patricia-the-Less" 1924年
ちなみに、この"Blossoming of Patricia-the-Less"の表紙に使われているイラストは、しばしばジェシー・ウィルコックス・スミスの作品として紹介されているのを見かけます。
この1枚だけを見ると、確かに似ていますね。
ルイザ・メイ・オルコットの本の挿絵
「花ざかりのローズ」(左)と「8人のいとこ」(右)
"Rose in Bloom(花ざかりのローズ)" 1927年
"Eight Cousins(8人のいとこ)" 1927年
ウィリアム・ドッジ・ルイス&アルバート・リンゼイ・ローランド著"Wonder World Book III" 1930年
グレース・ハンフリー著 "The Story of The Annes" 1937年から
アン・ブーリン
グレース・ハンフリー著 "The Story of The Annes" 1937年から
アン・ブロンテ(ブロンテ姉妹)
ところで先程、"Blossoming of Patricia-the-Less"の表紙イラストのスタイルがジェシー・ウィルコックス・スミス風であることに触れましたが、"Wonder World Book"の挿絵のひとつは、構図がエリザベス・シッペン・グリーンのイラストにそっくりです。
ハッティ・ロングストリート・プライスの挿絵
エリザベス・シッペン・グリーンのイラスト
更に言えばこのシッペン・グリーンのイラスト、ジェシー・ウィルコックス・スミスの"Dream Blocks"(1908年)の中の1枚とも、よく似ていたりします。
ジェシー・ウィルコックス・スミスによる"Dream Blocks"の挿絵
もっともシッペン・グリーンとウィルコックス・スミスに関しては、ほかの仲間たちと共に同居生活をしており、共同で仕事をすることも多かったため、模倣ではなくお互いに了承の上で同じ構図を使用したものと思われますが。
ロングストリート・プライスのほうも模倣には違いないものの、当時はままあることであり、さほど問題にはされなかっただろうと思います。殊にジェシー・ウィルコックス・スミスやエリザベス・シッペン・グリーンのように、誰もが知っていて万人に受け入れられやすい作風の画家は、参考にされることも多かったのではないでしょうか。
こちらはジェームズ・マクラッケンによる児童書の挿絵(左)
明らかにジェシー・ウィルコックス・スミスの作品(右)にインスパイアされたものであることがわかります
具体的にこの作品!ということでなくても作風を真似ることは、グリーティングカードや児童書など、あまり高い地位になかった分野ではよくあること。それを辿るとその時々の流行が見えて、これもまた興味深いのですが、それはまたいずれ…ということで、今回はこれにて。
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