メアリー・カサットのこどもたち(Children by Mary Cassatt)

右を向いているサラ
(Sara Looking to the Right)
1901

アメリカで生まれ、フランスで才能を開花させた画家メアリー・カサット(1844.5.22 - 1926.6.14)─彼女については、ここで改めて紹介するまでもなく、優れた資料がいくらでも日本語で読めるので省略しますが、一応ざっくりと。


アメリカ、ペンシルバニア州の裕福な家庭に生まれ育ったメアリー・カサット。
6歳で小学校に入学しましたが、幼い時から見聞を広めることが大切と考えていた両親の教育方針で、1951年からの数年は一家でヨーロッパ各地を移動しながら育ちました。
フランス語やドイツ語、音楽と共に、最初に絵を学んだのもこの頃。一家が帰国する1955年にはパリ万国博覧会が開催されており、帰国直前のメアリーも会場で有名画家たちの作品に触れ、影響を受けたと言われています。

画家を志すようになったメアリーは父親の反対を押し切り、わずか15歳でペンシルバニア美術アカデミーに入学。同校は当時、女子学生を受け入れる数少ない美術学校ではありましたが、それでも完全に平等というわけではなく、授業内容にも不満を募らせたメアリーは退学してパリへ渡ります。
が、女性の教育に関してはむしろフランスのほうが保守的でした。パリにはまだ女性が入学出来る美術学校は無く、メアリーはジャン=レオン・ジェロームやシャルル・シャプラン等の画家に直接師事したり、ルーブル美術館に通って巨匠の作品を模写するなどして学びました。ルーブルは当時、芸術家たちの情報交換や社交の場にもなっており、結果的にはこの時の経験は、広く色々な学びを得る機会だったと言えるかもしれません。この間に、サロンにも入選。パリで友だちになったエリザベス・ジェーン・ガードナーと共に、アメリカ人女性では初めてサロンに作品が展示されました。

1870年に晋仏戦争が始まると帰国を余儀なくされますが、その後再びヨーロッパへ。仕事のためにイタリアに滞在し、更にスペインを旅行した後、フランスに戻ります。
この時に出会ったのが、あのエドガー・ドガでした。
かねてよりサロンの在り方や古い画壇の体質に疑問を感じ、もっと自由な表現を求めていたメアリーは、ドガの誘いに応じ印象派の一員になります。ドガはメアリーを高く評価し、パステルやエッチングを教え、彼女の技術の向上に大いに貢献しました。
当時の批評家ギュスターヴ・ジェフロワは、彼女をベルト・モリゾ、マリー・ブラックモンと共に三大女流印象派画家と称しています。

初めて印象派展に参加した時の出品作のひとつで、ドガの手も入っている「青い肘掛椅子の少女(Little Girl in a Blue Armchair)」1878

後にドガが印象派を離れた際にはメアリーも辞めざるをえなくなり、またドガがメアリーと共に始めようとしていた仕事を勝手に断ったことから、仕事上はドガとも距離を置くことになりましたが、その後も彼女は新しいスタイルを取り入れ、自身の世界を創っていきました。
今日、メアリー・カサットと言えば…の、母と子を主題とした作品群や女性像も、これ以降の作品です。
また、婦人参政権や学生のための奨学金の機会均等など、フェミニズム運動に熱心だったことでも知られ、それが(直接的ではないものの)作品にも反映されていると言われています。


─さて、ここからが本題。
先程書いたように、一般にメアリー・カサットと言えば母子像や女性像なのですが、私の個人的な好みで言えば、そういった主流の作品よりも、知人や親類の子どもを描いた肖像画のほうがより好きです。
母子像に描かれた子どもの場合、その作品性のほうが前面に出ているのに比べて、これらの肖像画はある意味気楽に(と言っては語弊があるかもしれませんが)描いているぶん、何の象徴でもなく何も投影されていない、素のままの子どもが出ているようで。
この子はいつも機嫌がいいな、この子はちょっと緊張しているな、この子はおしゃまさんだなというのが伝わってくる、生き生きとした子どもたち。
あまり気乗りしない表情の子がいたりするのも可愛い。

“Elsie in a Blue Chair” 1880
“Elsie Cassatt Holding a Big Dog” c.1880
印象派のメンバーだった頃の作品

“Child in a Straw Hat” c.1886
印象派のグループを抜けた年の作品

“Ellen Mary Cassatt In A White Coat” c.1896
“Portrait of Ellen Mary Cassatt” c.1898
“The Pink Sash (Ellen Mary Cassatt)” c. 1898
Sara in a Dark Blue Dress Mary Cassatt - 1900-1901
“Spring: Margot Standing in a Garden” 1900
“Sara with her dog” c.1901
“Sara with her dog in an Armchair” 1901
“Somone in a White Bonnet” 1901
“Young Girl Seated in a Yellow Armchair” c.1902
“Margot in a Dark Red Costume Seated on a Round Backed Chair” 1902
“Margot in Big Bonnet and Red Dress” 1902
“Margot in Blue” 1902
“Margot in White” 1902
“Margot in Orange Dress” 1902
“Head of Simone in a Large Plumes Hat, Looking Left” 1903
“Girl with Hat (also known as Girl's Head)” 1904-1905
“Portrait of Master St. Pierre as a Young Boy” 1905
“Young Boy in Blue” 1906
“Portrait of d'Anne-Marie Durand-Ruel” 1908
“Girl in a Large Hat” 1908
“Francoise Wearing a Big White Hat” c.1908
“Françoise in Green, Sewing” 1908-1909
“Child with Bangs in a Blue Dress” c.1910
“Sketch of Tony” 1914
画家としては最晩年の作品。目が悪くなっていたメアリー・カサットは次第に描くことが難しくなり、この年(1914年)を最後に絵をやめています。



“Mother and Child” c.1889


コメント

このブログの人気の投稿

川目達の「金魚のダンス」

レーシー・ヘルプス(Racey Helps)

アボット・フラー・グレイヴス(Abbott Fuller Graves)

ベップ・ヨルデンス (Bep Jordens)

“ベルギーのミュシャ” アンリ・プリヴァ=リヴモン

ミロ・ウィンターのピーターラビット