アボット・フラー・グレイヴス(Abbott Fuller Graves)


花と庭園を描いたアメリカの画家&イラストレーター、アボット・フラー・グレイヴス(Abbott Fuller Graves, 1859.4.15-1936.7.15)。

マサチューセッツ州の労働者階級の家に生まれた彼は、家計を助けるために一度は学校をやめ、温室で花の世話をする仕事に就きました。元々花が好きでその仕事を選んだのか、たまたま就いた仕事がそれだったのか、いずれにしろこの時の経験が、後の創作活動でのテーマ選びにも影響していることは確かでしょう。

その後、マサチューセッツ工科大学に入学し、建築家になるための勉強を始めたグレイヴスでしたが、当時MITでは芸術に関する講義も行われており、おそらくはそこで絵画にも関心を持つようになったのではないかと言われています。
1878年に19歳でボストンのアート・クラブ展に入選すると、それを機にアトリエを開き、そこに学生を受け入れたり、イラストの仕事で収入を得たりするようになりました。
そして、大学は卒業しないまま、1884年にはフランスの“花の画家”ジョルジュ・ジャナン(1841-1925)に会うためにパリに渡ります。イタリアにも滞在し、前年から欧州で学んでいた友人の画家エドモンド・チャールズ・ターベルと共に、画家としての技術を磨きました。
ジョルジュ・ジャナンの作品

翌年帰国したグレイヴスは、ボストンのアートスクールで教えながら、美術雑誌「American Art Illustrated」に寄稿するなどしていましたが、2年ほど勤めたあと創作に専念するため再びパリへ。アカデミージュリアンで本格的に人物画などを学びました。

1891年、フランスから帰国。友人たちがニューヨークやボストンを拠点にして活躍するなか、グレイヴスはメイン州の海辺の村ケネバンクポートに移り住み、そこで油絵と水彩を教えながら創作活動を続けました。
またこの1891年には、ボストンに自身の美術学校(後にメイン州に移転)も開設しており、彼にとっては様々な基盤が整った年だったと言えるでしょう。
ケネバンクポートの風景を描いた1枚

1902年からは、パリの雑誌のイラストレーターとしても活躍するようになったグレイヴス。
この時の渡仏でも美術アカデミーで研鑽を重ね、1905年にはパリの“サロン”でメダルも獲得しました。
同年、雑誌の仕事を終えて帰国した彼は、ケネバンクポートに自らの設計で家を建築。1936年に亡くなるまで夏を過ごすための家として使用しました。
グレイヴスが最初に移り住んだ頃には既に、漁師町であると共にリゾートタウンでもあったケネバンクポート。そこに住むことは彼の絵にも大きな影響をもたらしました。
初期においては、室内の花を静物画として描くことが多かったグレイヴスですが、海辺の風景や自宅の庭づくりを通して、題材を部屋の外に求めるようになったのです。
村の人々の暮らしの様子や美しい景色、グレイヴスと同じように夏の家を持つ富裕層の庭園も格好の題材でした。室内に配置された花から、戸外で咲き誇る花へ。降り注ぐ陽光の下で咲く花、花、花…
美しい夢のような庭園の絵は評判を呼び、彼のもとには自分の庭を描いて欲しいという依頼が次々に舞い込みました。
Doorway and Garden

1913年には初の個展が開催され、以降、定期的に展覧会が開かれるようになります。
1922年以降は、夏はメイン州、冬はニューヨークに滞在するようになり、両方のスタジオを行ったり来たりしながら、国立のデザインアカデミーやアーツクラブをはじめ、様々な組織に所属し仕事をしました。

グレイヴスがケネバンクポートに建てた家
(1910年頃のポストカード)
フランク・ロイド・ライトの影響が感じられるこのサマーハウスは、建ってから数年後には既にメイン州の名所として、このような絵葉書にもなっていたようです

1936年、没。
彼の死後、44年経った1980年、ケネバンクポートのアボット・グレイヴスハウスは、プレーリー様式を取り入れた貴重な建造物として、アメリカの国家歴史登録財(NRHP)に登録されています。








Basket of Roses, c.1890



















Ye Olde Time Drugge Shop
Country Grocery In Kennebunkport, Maine
The Nest Egg, 1910
Yankee Peddler


Nearing Home, c.1905











Parrot in Garden, c.1930
Psyche in the Garden, c.1930
From the Terrace










Vieux Carre, New Orleans, c.1927-1928





ここで紹介しきれなかった作品は 次の記事 で。



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