チョコレートボックスのバレリーナ(Carlotta Edwards)

Symphonie Fantastique 1957?

 
装飾的で感傷的な芸術作品を評する時、英語では“チョコレートボックス”という言葉が使われることがあります。
お菓子の箱のように華やかで甘く、人を喜ばせるけれどただそれだけといったニュアンスを含む、やや侮蔑的な言い回しです。

カルロッタ・エドワーズ(Carlotta Edwards, 1894?-1977)は、まさにそういう作品を沢山描いた画家でした。

彼女の経歴については実のところ、あまり正確なことはわかっていません。これまで、まことしやかに語られてきたことは以下の通り。
「フランスの画家フェルディナン・プゥーリエの娘」で「代々、劇場に深い関わりがあり」「名だたるダンサーたちを劇場で直にスケッチし、モデルとして描いた」──モデルの中にはソ連(当時)の有名なバレリーナもおり、それを補完するかのような「ロシアから渡英して来た」という説まであるようです。
ですが、父フェルディナン・プゥーリエなる画家は、カルロッタ・エドワーズの経歴の中にしか名前を見つけることができず、実際に彼女が劇場に出入りしていたという証拠も残っていません。近年では、彼女のバレリーナの絵は、殆どが写真を見て描いたものではないかと言われています。
そして、結婚証明書に記載されているという“フェルナンデ・シャーロット(シャルロットorシャルロッテの可能性も)・フェリシタス・カタリナ・プゥーリエ”という本名。一見したところでは、ルーツが何処にあるのかもよくわかりません。
ともかく、彼女はロンドンで美術を学んだようです。そして、1930年代には画家として活動を始めていました。
確認できる一番古い展覧会の記録は1947年。一般的な紹介文では、王立肖像画家協会やサロン・ド・パリでも作品を展示したとされています。

画家としては遅咲きとも言えるカルロッタ・エドワーズ。彼女が大きな注目を浴びるようになったのは1950年代になってから。“メディチ・ソサエティ”という会社と契約したことがきっかけでした。
同社は、より多くの人々に芸術に親しんでもらうために「商業的に可能な限り低価格で」美術品を販売する団体として設立され、現在も事業を続けています。
カルロッタがいつ頃からバレエを題材とした絵を描くようになったのか、はっきりとはわかっていませんが、メディチ社が彼女を売り出す際にそのテーマに力を入れたことは間違いないでしょう。華やかで魅力的なプロフィールも、或いはこの頃に出来上がったものかもしれません。
この契約を機に、カルロッタ・エドワーズは一躍売れっ子画家になっていきます。大量にプリントされた作品は、ロマンチックなインテリアとして壁を飾り、グリーティングカードとして収集されて少女たちの宝物になりました。また、小間物を扱う別の会社(※後述)からは、彼女の絵をあしらったコンパクトやシガレットケースも売り出されました。
1950~1960年代にかけて、その人気はオーストラリアやニュージーランドにまで及んだと言います。


甘やかな色彩と淡い光。オルゴールの舞台の上で、くるくると回る人形のようなバレリーナたち。カルロッタの絵は、懐かしい憧れを思い起こさせます。
確かに、芸術的な価値は高くないのかもしれません。
しかし、私のようにお菓子の箱や缶を大切にとっておくタイプの人間には、“チョコレートボックス”は悪い言葉には思えません。多くの少女と、かつて少女だった者たちにとってそれは、甘いお菓子が無くなった後もずっと、美しい夢や思い出をしまっておく宝箱なのですから。




※注) バーミンガムにあった“ハッセー・ドーソン・リミテッド”。『Gwenda』というブランド名で様々なバニティアイテムを取り扱っていました。カルロッタ・エドワーズのコンパクトについての言及がこちらの記事(2012年8月15日の日付の部分)にあります。
写真は彼女の絵を使用したものか確実ではないようですが、どの様な商品だったか雰囲気がわかります。



Margot Fonteyn and the Corps de Ballet  1964

Pas de quatre 

The Nutcracker

Margot Fonteyn in 'Giselle'

Giselle

Nocturne, 'Les Sylphides'

Swan Lake

The Mazurka

Dance of the Snowflakes

Le Cygne (Markova in opening movement)
Le Cygne (Markova in closing movement)

Margot Fonteyn as Ondine

Coppelia

Swan Lake

La Valse

Ballet School



カルロッタ・エドワーズの絵を使用した置時計
コースター
壁飾り



なお今回の記事は、バレエの研究を専門としている学者ケイトリン・レーマン氏のサイト“Vintage Pointe”内のブログに拠る部分が大きいです。
というのもカルロッタ・エドワーズのプロフィールについては現在、名だたるダンサーと直接面識があったことこそ否定されているものの、その他については従来型の(フランスの画家フェルディナン・プゥーリエの娘で…といったタイプの)紹介がそのまま使用されており、それ以外の事実に触れているものが極めて少ない(というか、このサイトしかない)ため。
更にレーマン氏のブログは、元ダンサーのジェニー・ウォルトン氏が調査した情報を元にしており、出来ればそちらのサイト等も載せたかったのですが、それについては何も見つけることが出来ませんでした。失礼ながらお二人には、この場にて御礼申し上げます。

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